人体実験
頭上の骨
十三段を登る
ひとつ ひとつ
一歩 一歩
靴の底が床をはじいて
カツン
音をたてる
ひとつ ひとつ
一歩 一歩
足並はとまり
首は紐の輪の中に通されて
しばしの後に 足元の板は外れて
そのあとには
未熟な静寂
行き場をなくして戸惑っているみたいだ
ガタン
ギギィ…
ギギィ…
――僕の 大好きな 友達は
恍惚を現実と交錯させて 境を解いてしまった
小さな国の
小さな町の
小さな部屋の出来事
彼の歴史は血塗られて
いくつもの過ちが繰り返されたのちに発覚
森に迷い込んで もう抜けられない
判決は陪審員一致で死刑
そして今日になって
十三段の頭上では 主をなくした 身体が 紐に括られて揺れている
裁判官は木槌を机において自らの責務を終えた
マスコミは連日連夜にして乱暴に彼を騒ぎ立てた
人々はアイツがいなくなって良かったと言っていた
母親は火葬場のトイレで泣いていた
夏の日差しは激しくて僕はただ暑かった
汗ばかりかいてシャツは湿っていた
頭上をつがいの鳩が飛んでいった
その日は朝からとても暑い日で
遠くの街では気温の最高記録を更新していた
僕の 大好きな 友達は
火葬場から焼かれて 骨になって
灰になって
破片になって
魂になって
もう誰も殺すことはない
誰も傷つけることはない
それで良かったのだとみんな言っている
けれど母親は火葬場のトイレで泣いていた
僕はその声をトイレの前で耳にしてしまって
ずっと離れない
十三段を登る
ひとつ ひとつ
一歩 一歩
靴の底が床をはじいて
カツン 音をたてる
ひとつ ひとつ
一歩 一歩
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